今相続税対策の中で注目されているのは『生前贈与』です。相続税が厳しくなる一方で、
贈与については若干緩和されているところがあります。大切な人に財産を贈与することで、
節税効果まで期待できれば、確かに一石二鳥ですよね。
『生前贈与』を行なう上で、注意すべきポイントに『名義預金』です。たとえば祖母が孫の
名義で預金をしており、それを『贈与』だと主張しても、孫がその預金の事実を知らなかった
場合などは『贈与』であることを否認され、相続財産として課税されることがあります。
せっかくの贈与が相続財産扱いで、節税効果も下がってしまうことになったら大変です。
贈与をする場合はそれが本当に贈与であると認めてもらえるように工夫をしておきましょう。
そして生前贈与が『定期贈与』と認定されないためのポイントについてお話したいと思います。
『定期贈与』とは、一定期間に渡る一定額の給付を目的とする贈与です。毎年繰り返し贈与を
行なう『連年贈与』自体は問題無いのですが、やり方によっては『定期贈与』とみなされて
課税される場合があります。贈与の場合、一年間に110万円までであれば、無税で贈与
することができます。しかし、予め「総額○○万円を△年間に渡って、毎年☆☆万円ずつ
贈与する」という意思があれば、「総額○○万円」の部分に贈与税がかかってしまうことに
なってしまいます。
つまり「贈与税の基礎控除額を利用して、毎年110万円ずつ孫に贈与しよう!」と思って、
20年間贈与し続けた場合、この総額2,200万円に贈与税が課せられる危険性があるわ
けです(正確には、相続税法24条の有期定期金の評価に準じて贈与額の評価が行われ
るので、2,200万円を若干下回ります)。
贈与を否認されて相続税の課税対象とされてしまうことも怖いですが、贈与を『定期贈与』
と認定されて多額の贈与税がかかってしまうことも、贈与税の税率の高さを考えると非常
に怖いのです。
さて、それでは『定期贈与』と認定されずに上手に生前贈与を行なうには、どうしたらいい
のでしょう?
大切なのは、「はじめから○○万円贈与するなんて考えていませんでした。子や孫に贈与
をしていくうちに、気づけば総額○○万円になっていたのです!」という言葉を信じてもら
えるような状況を作ることです。そのために、以下のような工夫をします。
①時期や金額を変えて贈与しましょう。
毎年同じ金額を贈与すると、定期贈与を疑われます。贈与税の非課税枠が110万円だ
からと言って毎年110万円ずつ贈与するより、ある年は100万円、次の年は80万円、そ
の次の年は110万円というように、金額は変えたほうが良いです。
また毎年同じ日に贈与することも避ける必要があります。
②振込や贈与税の申告をして証拠を残しましょう。
これは『定期贈与』だけでなく、生前贈与を行なう場合に必ず注意すべきことです。基礎控
除額以下の金額を現金手渡しで贈与しても、証拠が残りません。「いつ」「いくら」贈与した
のかを残すためには、振込をして通帳に証拠を残すのが一つの手段です。また、低い税
率で贈与することで贈与税申告をしておけば、それが証拠になります。あえて贈与税を支
払うということも、後々を考えると有効です。
③その都度、贈与契約書を交わしましょう。
生前贈与を行なう場合は、贈与契約書を交わしましょうというのは、さまざまな場面でご説
明をしています。これも贈与の証拠を残す一つの手段です。「いつ」「いくら」贈与したのか
を証明することにもなりますし、契約書を交わすということは贈与者と受贈者が合意したこ
との証明にもなります。
ただし、「毎年○○万円を△年間贈与する」などと記載してしまえば、立派な『定期贈与』
の証拠になってしまうので、ご注意ください。
また、毎年作成した契約書をその都度公証役場へ持っていって確定日付をもらっておけ
ば、更に強い証拠となります。
このように、気をつけるべきポイントはいくつかあるわけですが、正直に言えば相続対策
をお考えの皆さんの多くは「どうすれば相続税や贈与税を安く抑えられるかな」と考えて生
前贈与を利用するのですから、『定期贈与』と認定される危険性は十分にあります。そして
『定期贈与』と認定される判断基準は明確ではありませんので、「これさえしておけば大丈
夫!」と言える方法もありません。結局は『定期贈与』と認定されないための、さまざまな
証拠を準備しておくことしかできないのです。
贈与一つをとっても気をつけるべきポイントがたくさんありますから、総合的な相続対策を
立てるとなれば更に複雑になります。「相続対策なんて、もう考えるのも嫌!」となる前に、
ぜひプロにご相談下さい。